優しい魔女は嘘をつく
隣に置いてあった鞄から、筆箱を取り出すと、その中から一本のペンを取る。
寒くはないのに、手が震えた。
はぁ、と息を吐くと、白く濁った吐息が手にかかる。温かいな、と思った。
きっと、もう、最後は変えられない。
もうすぐ、嫌でも私はここからいなくなる。
だったら私は、堂本くんにさよならを言おう。
後悔しないためにも、これ以上、″未練″を増やさないためにも。
そして今から、その準備をしに行く。
私は教室を出ると、足音も立てず、薄汚れたリノリウムの上を進んでいく。
廊下には、ただ静かな時間が流れていた。