優しい魔女は嘘をつく

駅のホームに着くと、立ったまま、透き通ったブルーの空を仰ぐ。自然と笑みが溢れていた。




いつか思い出が色褪せて、彼女の顔を思い出せなくなる日が来るかもしれない。




そうなったとしても、絶対忘れない。いや、忘れられないだろう。




初めて王子役をした演劇も。まるで魔法をかけられたみたいに頬が赤くなった、二人きりの時間も。



駒森がくれた、特別な四十九日も。







「初美……」






初めて口にした、彼女の名前。唇が僅かに震えるのが分かった。




すぐ、恥ずかしくていてもたってもいられなくなって、俺は青空から視線を落とす。




俺、ちゃんと名前覚えてるぞ?





きっと、これから先も絶対に忘れない。
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