優しい魔女は嘘をつく
それが叶わないことが分かっていたって、彼女は嘘をつくんだ。
そして、駒森のついた嘘で、誰ひとり傷つかなかった。その嘘は、誰一人傷つけなかった。
いつか思い出して笑える。今思えば、そんな「魔法」のような嘘だったんだ。
それに今、こうやって俺があれから何年も経った今も信じているんだから。
またいつか、彼女に会える日がくるんじゃないか、って。
緑が、町の風景が、流れていく。
ガタンガタン、と揺れる車内に、それをかき消すように、次に降りる駅のアナウンスが流れた。
優しい魔女は嘘をつく。
あの頃確かに、俺にとっての「魔女」は、
駒森 初美だった。
end.