Can I love...?【短編小説集】
もう離れないで
もう離れないで
変わらない。
「おはよ!」
「おはー。今日あったかいよねぇ。」
「ほんとそれ。やっとだよぉ。」
飛び交う女子高校生の会話は朝にも関わらず駅の放送に負けず劣らずの大きさで繰り広げられ、それすらもかき消すかのように人込みはますます濃くなる。
「それよりさぁ、昨日テレビ見たぁ?」
「あぁ、あれでしょ。スマホのニュースにも載ってたじゃん。あれってさぁ・・・って電車来ちゃったじゃん。」
朝だからなのか、今どきの女子だからなのか、やたら語尾が強調されたような言葉で話している。私からすればそんなのでこの先、生きていけるのか、と不安になるくらいだ。
7:24、いつものようにほかの電車よか少し隙気味の電車に乗り込む。もっとも、立っている人が動きづらいのは当たり前、明らかに容量オーバーでないことが隙気味だというのだから、まるっきり地方の人からすれば、多いと突っ込まれるのだろうが。
そんな車両の中ではみんなして一心不乱に手元の小さな箱に目を落としている。さっきまでゆかいな脱力会話をしていた女子グループですら、それをすることにこの時間を費やしまくっているのだ。
ああ、古人が言った人々は皆十人十色、一人ひとり違って皆いいのだ、という言葉が全く別世界で作られた四字熟語のように思える。みんな似たような形の機器を同じような体制で同じように触っているこの姿のどこが『十色』なのだろう。
などと情緒的なことを考えつつ、結局自分もスマホに目を落とすのだから、やはり昨日と今日とでは何も変わらないのだろう。
いつものようにSNSを立ち上げ一通り返信した後に、ニュースに切り替える。芸能から一般社会にまで幅広くそして薄く書かれた膨大な量の題名を深く読みもせずただ見送る。
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