【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
「やめろ!馬鹿かお前は!」
芳也は顔を逸らすように、麻耶の肩を押した。
「いいから!こんな私で慰められるなら、少しでも芳也さんが楽になるなら……それでいいから」
麻耶は自分で自分が信じられなかった。ここまで言われれば、いつもの自分なら絶対にこれ以上踏み込まなかったはずだ。
しかし、今目の前にいる芳也をどうしても抱きしめたかった。
小さい頃からどんな思いでいたのか、それを思うと胸が締め付けられた。

「欲求のはけ口でいい。明日になったら忘れるから。今だけ」
呆然とその言葉を虚ろな目で聞いている芳也の頬に触れた。

「お前をそんな事に使いたくない……」
絞り出すように言った芳也の言葉を無視して、麻耶は芳也の頭を抱きしめた。

「人が恋しい事もあるでしょ?誰かに抱きしめてもらいたい事。私も今そうして欲しい」
麻耶はそっと顔を上げると、そっと芳也にキスしようとした。

ふっと顔を逸らされて麻耶は心が折れそうだった。
私じゃやっぱり無理なんだ。身体ですら求めてもらえない。

涙が頬をつたった。


麻耶は触れていた芳也の頬から手を離すと、その手が芳也に握られた。
驚いて麻耶は芳也を見ると、その涙をいつものように芳也の指が拭った。
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