【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
麻耶はギュッと握られた手が震えていたことに初めて気づいた。
その震えを止める様に芳也の両手が麻耶の手を包み込んだ。

その温かさに、また麻耶の目から涙が零れ落ちた。
その涙にそっとキスを落とすと、芳也は麻耶を組み敷いて首筋に唇を這わせた。

何も言葉を発しない芳也だったが、その手は熱く、あっと言う間に麻耶の部屋着を取り去ると、芳也は麻耶を翻弄した。
激しく揺さぶられて意識が飛びそうな中、見上げた芳也の瞳は、悲しみなのか、怒りなのか、欲情なのか……それすら分からなかった。
ただ一言、呼ばれた「麻耶……」その言葉を聞きながら、瞳に吸い込まれるように麻耶は意識を手放した。


どれぐらい時間が経ったのだろう?麻耶が目を覚ますとそこは芳也の寝室だった。
芳也のTシャツを着せられて寝室に運ばれたようだった。

そして隣には眠る芳也の姿があった。

(やっちゃったな……)

麻耶はゆっくりと起き上がると、リビングに行き散らばった自分の下着や部屋着を集めてそっとバスルームへと向かった。

(後悔は……してない)

熱いシャワーを頭から浴びると、麻耶は自分の心の中を整理した。
あのままの芳也を放置することはできなかった。

―― ただそれだけ。事故だ。

麻耶は何度となく自分に言い聞かせた。
これ以上芳也を好きになってはいけない。麻耶の中ではそんな思いでいっぱいだった。

―― 惹かれてはいけない人。好きになっては行けない人。
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