【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
麻耶がゆっくりとベッドから出て、扉が閉まる音が聞こえると、芳也は目を開けた。

(止められなかった……)

後悔と罪の意識が襲い、これからどうすればいいのか推し測った。
確かに感じるこの愛しさを、麻耶に知られる訳にはいかない。

絶対に麻耶を求めてはいけない。そうわかっていたのに。
芳也を抱きしめる腕が、指が小刻みに震えていた。どれだけ勇気をだしてくれたのか……。
それを思うと芳也は胸が潰されそうだった。

(結局俺も言い訳のように、アイツの震えを止めたいそう思って触れてしまった……。でもこれ以上、麻耶に気持ちを持つことは許されない。抱いといて何を俺……)

ぎゅっと瞳を閉じると、麻耶が部屋に入ってきたことが分かった。

ベッドに入ることはなく、そばで見下ろしている感覚がしていたが、芳也はそのまま眠ったふりをした。
そっと頬に触れた麻耶の手がすぐに離れた。
その手を掴みたい衝動をなんとかこらえると、そっと麻耶の気配が消えパタンという音とともに寝室に静寂が訪れた。

一緒に眠ることが無い事に、安堵なのか、寂しさなのか分からない感情を押し殺すと、芳也はまた目を閉じた。

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