【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
それから芳也は麻耶に会う事ができずにいた。
どう、別れを切り出していいのかわからずにいた。

本当ならばひどい言葉を投げつけて、自分の事など忘れてもらうのが一番いい。その事は理解していた。
でも芳也自身が麻耶の手を離せずにいた。

家に帰る時間を遅くするために仕事に明け暮れた。そして限界を感じて始を呼び出した。

薄暗いホテルのBARを指定して、芳也は一人グラスを傾けると大きく息を吐いた。

「大丈夫か?」
後ろから声を掛けられ、芳也は振り向いた。
「悪いな。付き合わせて」
静かに言った芳也を見て、始は大きくため息をついた。
「ひどい顔色だぞ」
「ああ」
わかっていると言った芳也に、始はまたため息をつくとゆっくりとカウンターの隣の席に座った。

「ウィスキーばかり体に悪い」
そう言いながら、始も同じものを頼むとゆっくりと話し始めた。

「なあ、もう自分を許してもいいんじゃないか?10年もたったんだぞ」
「そんな訳にいかない」
「そのために水崎を傷つけるのか?お前以上にアイツもひどい顔してるぞ」
その言葉に芳也は言葉に詰まった。

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