【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
「そうだな。付き合うって言葉にはしなかったけど、俺にとっては十分すぎるほど幸せな時間だったよ。アイツと一緒にいると何でも乗り越えていけるきがしたよ。許されないとわかっていても手を離せなくなったのは俺の方だ。でも……もう終わりだ」

「なんでだよ!?」
だったらこのままでいいんじゃないか?始がそう言いたいのがわかり、芳也は始に頭を下げた。

「これ以上、一緒にいたらアイツを不幸にするだけだ。これ以上もう限界だ……もう遅いかもしれない。頼むアイツを水崎を……支えてやってくれ。俺はあいつまで傷つけた……」
最後の方は言葉にならない芳也に、始も掛ける言葉を失った。

「告白……されたのか?」

その問いに、芳也は首を振った。

「じゃあ、何が……」

「抱いた」

「え?」
始にとっても意外すぎる言葉に、驚いて芳也を見据えた。

「こないだ、兄貴にあった日、勢いに任せて抱いた」
「お前……」
「わかってる。最低な事をしたって。でも……。抑えられなかったんだ……。でも俺はあいつの思いに答えられないだろ?こんな俺じゃ……。なのにアイツの優しさに漬け込んだ……」
その言葉に、大きく始は息を吐くと、芳也を見た。

「なあ、それぐらい気持ちがあるって事だよな?」
「……初めて人を愛するってことが分かったよ。あの時どれだけ兄貴が辛かったって事もな。これが本当の俺への罰なのかもしてない。でも……水崎を巻き込んでしまった……」
苦し気に呟いた芳也に始も黙ってグラスに手を掛けた。

――ただ一緒にいたい。楽しい時も、泣きたいときも隣にいたい。

(それを俺が望むことは許されない)

< 163 / 280 >

この作品をシェア

pagetop