【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
「俺は、誰も愛さない。幸せになる資格はない」

何度も繰り返されるその言葉に、麻耶の中で何かが壊れるのがわかった。

「じゃあなんでこの仕事を選んだのよ!なんでこの仕事なの?贖罪って言ったじゃない!許されたいんじゃなかったの?幸せになりたかったんじゃないの?!」
麻耶の叫びに芳也の胸が締め付けられた。

その通りだった。なぜどんな業界の仕事でも、もちろん自分の得意分野であるコンサルタント業だってできた。
でも、このブライダルの世界に身を投じた。
罪の意識からか、誰かを幸せにしたいという気持ちがあったのかもしれない。
幸せな人達を見ることで、自分の罪を償いたかった……そうなのかもしれない
自分が苦しむ度、苦しむことで許しを乞うていた。

自分だけのはずだったのに……。

麻耶を、一番愛した人をここまでまた苦しめている。
自分の自分勝手な行動で、抑えることができなかった思いのせいで。


泣きじゃくって、芳也の背中を叩く麻耶を抱きしめたくて、むちゃくちゃにキスしたくて。
そんな思いをグッと、血がにじむほど自分の手を握ってこらえた。

「なんでよ……。じゃあ嫌いって。お前なんて必要ないって……そう言ってよ」

「悪い……俺は……過去に許されない事をした。お前に愛してもらえる資格なんてないんだ」
芳也はそれだけを言って自分の部屋にもどろうとした。

「もう……いい」
それだけが聞こえて、麻耶の温もりが消えた。
芳也はしばらくそこに立ちすくむと、少しして部屋のドアが閉まる音が聞こえた。

< 166 / 280 >

この作品をシェア

pagetop