【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
荷物を1LDKのリビングの隅に置かせてもらい、麻耶はソファに座ると軽く息を吐いた。
「麻耶、紅茶でいい?」
「ありがとう」
友梨佳は自分のカップと麻耶のカップを持つと、隣に座り麻耶を見た。

「それで?急にどうしたの?」
「……振られたの。好きだってバレちゃった」
静かに言った麻耶の目に涙が浮かんだ。
「そっか」
友梨佳は紅茶のカップを手に握ると、
「最後きちんと話しできたの?」
「うんん、一方的に俺は誰も愛せない。そう言われた」
その言葉に友梨佳は怪訝な表情をして麻耶を見た。

「何?それ?意味がわからない」
理解できないと言った様子に、麻耶も複雑な顔を見せた。
「好きじゃなくてもいいから、一緒にいたいそう言ってもダメだって。俺には資格が無いって」

「資格?資格って……何か社長ってトラウマ的な物があるの?」
「たぶんね。お家が大変みたいでお兄さんがらみで昔何かあったみたい。ここだけの話だけど噂通り、ミヤタグループの御曹司だと思う」

「え?あれ噂だけじゃないの?」
「アイリさんにも会ったんだけど、社長のご両親もアイリさんとの結婚を望むって言ってたし、政略結婚じゃないかな。今の社長でも上場企業の雲の上の様な存在なのに、世界のミヤタグループの息子なんて手が届くわけないよ」
悲し気に笑った麻耶に、友梨佳も目を伏せて考えるような表情をした。

「そうなんだ。でもたとえ社長がどうこの誰であっても、こんな最後できちんとふっきれるの?資格がどうとか、愛さないとか麻耶を好きじゃないって事にはならないじゃない?返事になってないと私は思うけど……」
「それは……」
言葉を濁した麻耶に、
「先に進むためにもきちんと振られてきた方がいいんじゃない?私には社長が解らないけど。鍵は返したの?」
「それは……」

それはという言葉以外友梨佳に何かいう事もできず、麻耶は黙り込んだ。

家を出る時に鍵を返すべきだとはわかっていたが、これを返してしまうと本当にもう芳也と会えなくなる気がして、どうしても置いてこれずにいた。


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