【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
「でも……」
俯く芳也に、健斗は「大丈夫だ」そう言うと、チラリと後ろを向いた。

「小百合さん……」
そこに立っている人を見て、また芳也は立ち尽くした。


「小百合……」
「うん」
そう言ってまっすぐと歩いてくる、小百合は昔の面影はあるものの、凛とした大人の女性だった。
昔よりきれいになって、自信にあふれた女性だった。真っすぐに見つめる瞳は何も変わらず、キレイな黒髪が海風になびいていた。

「反対にしてやれよ」
健斗の言葉に、芳也は何のことかわからず、小百合を見た。

バシッ!
小百合の平手が芳也の頬をぶった。
頬を押さえて唖然とした表情で、芳也は小百合を見た。

「あの時、芳也君が健斗を傷つける為だけに私に近づいたこと、それは本当にショックだった。でも私が姿を消したのは芳也君のせいじゃないのよ。時間が経ってあんな自殺まがいの事をして、宮田の家にも、自分の両親にも迷惑を掛けて、結果芳也君をあの家から追い出させてしまった。その自分自身の罪の意識だったの。まさか、この事があなたの心をこんなにも傷つけて、いまだに人を愛してはいけないなんて思ってるとは思っていなかった。本当にごめんなさい」

頭を下げた小百合に、慌てて芳也は声を掛けた。
「小百合さんが謝ることじゃない。俺が……俺が。俺が弱かったばかりに、兄貴に勝ちたい、両親に認められたいそんな思いを間違った方向に……。結果取り返しのつかないことになった。兄貴にも、小百合さんにもこれ以上ない傷を負わしてしまった」

「だから、これでお終いにしましょ。健斗も私もその為に今日時間作ったのよ。私なんて大切な旦那と子供の時間を割いてきたんだから、これから幸せにならないと許さないわよ」

ニコリと笑った小百合の笑顔に、芳也の頬に涙がつたった。

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