【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
「私も幸せになって欲しいって思ってますよ……」
呟くように麻耶は言って、芳也を思った。

始にお礼を言って、一人暮らしの家に帰ってシャワーを浴びてベッドに座った。
なぜか、芳也の話を聞いて心が落ち着かなかった。しかし何かできることも自分にはないと辛かった。

麻耶の中で始の話を聞いてから、今までの芳也の行動と言葉がストンと腑に落ちた。

本当の芳也は、人の事を1番に考え、優しい人だ。

いくら辛い時期だったとはいえ、まだ18歳という多感な時期に、実の兄とその彼女から幸せを奪ってしまった事は許しがたい事なのだろう。

もちろん、芳也が悪いという事は麻耶もわかっていたが、一緒にいて、本当の芳也を知り、苦しんできた芳也を見ると、芳也が悪いとも、自分にひどい事をしたと恨む気持ちも全くなかった。

ただ、これからの芳也がこの10年分も幸せになって欲しい。兄や両親と関係を修復して欲しい。それだけの気持ちしか麻耶には無かった。

芳也の過去を知り、芳也の頑なな態度の理由がわかったが、だからといってどうにもならない現実と、行き場のないこの思いは、いつになったら消えて行くのか麻耶自身分からなかった。

ベッドに潜り込むと、ギュっとシーツを握りしめ、ただ無言で涙を流していた。

芳也を思って泣いたのか、会いたくなったのか……自分の気持ちが解らず大きく息を吸った。

(情緒不安定だな……)

涙を拭うと、麻耶は目をギュッとつぶった。

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