【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
そこまで言ったところで、「お前は馬鹿か!」その父の言葉に、芳也はギュッと唇を噛んだ。

「申し訳あり……」
「お前にそんな宮田の、会社の為に結婚をしろと言った訳じゃない!それこそ思い上がりだ!お前なんかがそんな政略結婚をしなくても、ミヤタが揺るぐわけないだろ!」
苛立ったように言った父の言葉に、芳也は目を見開いて動きを止めた。

「それはどういう意味……」
口を噤んだ父の代わりに、母が口を開いた。

「お父さんはあなたの事を心配していたのよ」
「え……?」
意外すぎる言葉に、父は苦虫を潰したような顔をして母を見た。

「俺はもう行く!芳也。結婚は白紙にするが、お前の相手を認めるかは別問題だ。今度連れてこい!」
そう言うと、父は応接室をでて行った。

啞然としてでて行く父の後姿を見ながら、芳也は立ちすくんだ。

「芳也。座って」
優しく掛けられた母の言葉に、芳也は久しぶりに母親の顔を見た。

「迷惑を掛けて……」
「芳也。違うのよ」
俯いて目を伏せた母を芳也に驚いた顔を見せた。

「どういうこと?」
「お父さんは、あの時初めてあなたの気持ちが分かったんだと思う。どれだけ辛くて、健斗にコンプレックスを持っていたことが。そこで初めて自分の接し方が間違ったことに気づいたんだと思う。でも……お父さんの性格だと素直にそれを認めることも、謝ることもできなかった。そしてあなたを自由にするためにアメリカに行かせたの」
その言葉に、驚いて芳也は息を飲んだ。

「そんな……俺はてっきり勘当されたものだと……」
「そう聞こえたわよね。でもね、本当は心配していたのよ。このまま健斗の近くにいることは芳也の為にならないって。最近の芳也の会社の成長をとてもお父さん喜んでいたのよ」

母の言葉に芳也はギュッと心が締め付けられるような気がした。
< 194 / 280 >

この作品をシェア

pagetop