【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
麻耶は当面必要な物をスーツケースにまとめると、芳也とともにまた車に戻った。

「麻耶、どこかで食事でもしようか?」
「本当ですか?」
「ああ、いつも家でどこかに連れてったこともないよな」
申し訳なさそうに言った芳也に麻耶は微笑むと、

「それは当たり前ですよ?社長と一社員が行くわけないですし」
麻耶も苦笑しながら言うと、急に芳也が社長という事を思い出した。

「芳也さん……本当に私でいいんですか?」
「どういう意味?」
芳也はゆっくりと怒るでもなく麻耶に前を向いたまま問いかけた。
「今でさえ芳也さんは私にとって雲の上の人で……。それに芳也さんのお父様ってミヤタ自動車の社長ですよね?」
始からも聞いていたが、再度芳也の口から聞きたくて麻耶は不安だった事を口にした。
「だから?」
尚も表情を変えずに言った芳也に、麻耶は更に不安になり俯いた。

「私なんかでいいのかって。芳也さんにはもっとお似合いのお嬢さんがいるのかなって」
呟くように言った麻耶に、
「麻耶はそれでいいんだ」
冷たく言われて、麻耶は唇を噛んだ後、ジッと芳也を見据えた。
「嫌です……」
「じゃあ、そんなくだらない事聞くな。俺の愛情を舐めるなよ。そんな事で麻耶を諦めるぐらいなら、こんな風にお前の所に戻ってない。兄貴に許してもらえたなら、俺は麻耶をもう離さない。わかったか?」
その言葉に、麻耶は瞳に涙を溜めるとゆっくりと頷いた。
「ただ、麻耶にはいろいろと嫌な思いや、努力してもらう事もあるかもしれない。一緒に努力してくれるか?」
「芳也さんと一緒にいたい。そのために努力したいです」
はっきりと言ってニコッと笑った麻耶に、芳也も嬉しそうに微笑んだ。

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