【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
その問いに麻耶も首を傾げまじまじとその男性を見上げた。

(え……っと、ちょっと待って、嘘でしょ……私なんて声を掛けた??)

「失礼いたしました。社長!」
麻耶は勢いよく頭を下げると謝罪の言葉を述べて1歩後ろに下がった。

そこにいたのは若干29歳の若さにしてこの会社を立ち上げた宮田芳也その人だった。

社内では、世界に展開するMIYATAのグループの会長を祖父に持ち、父が宮田自動車の社長という噂があるが真相は定かではない。

麻耶の知る限りでは、芳也はアメリカの有名大学を卒業し、資産運用で資本金を集めたとかで、6年前にブライダル業界に参入しあっと言う間にこの会社を上場するまでにした人物。
そして身長も180㎝はあり、顔もどこかのモデルより整っている。
引き込まれそうな漆黒の瞳、同じく黒のすこし波打った髪。

憧れる女性社員も多いが、麻耶にとってはあまりにも完璧すぎて見ているだけの存在というより、見ても気づかないぐらいの存在で、遠い壇上や画面の中の記憶しかなく、あまりにも非現実的な人だった。

「私こそ勝手に悪かったね。気にせず仕事をして。えーと?」
「あっ、水崎です。水崎麻耶です」
「水崎さん、がんばってね。急いでいたように見えたけど?」
ビクビクと様子を伺っていた麻耶を見て、少し微笑を湛え芳也は言うとニコリと笑顔を向けた。
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