【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
「お前って変な女」
まだ箸を持ったまま、口元を押さえて笑う、その初めて見る笑顔に麻耶はまた目が離せなかった。
会社で見る笑顔は作り物だと初めて気づいた。
こんなに、柔らかく、楽しそうに笑う人なんだと……。

「まだ時間大丈夫ですか?何時に今日は出勤ですか?」
麻耶はテレビの画面に映し出された、時計をみながらキッチンから声を掛けた。

「あと30分ぐらいで迎えがくる」
新聞を見ながら答えた芳也に、「はい」と返事をした後、麻耶はマグカップにコーヒーを注いだ。

「社長!ミルクと砂糖は?」
不意に聞かれた問いに、「本当にお前は主語がないよな」とボソっと言った後、麻耶に聞こえるように、
「ブラック」
とだけ答えて新聞に目を落とした。
「はい」
とコトリと置かれたマグカップに手を伸ばしながら、
「ありがとう。あと、お前家で社長は止めろ」
その言葉に、麻耶は少し考える様子を見せて、

「え?じゃあ、ご主人様?」

その答えに、芳也は危うくコーヒーを吹き出しそうになった。
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