With*You










─────────…幸せはいつか壊れてしまうもの。


人は時に壊れることを恐れて自らその幸せを壊すこともある。





「……太雅」


「んー?」


「あのさ……。
もうここに来ないでくれる?」


「え?」


「太雅に……会いたくないの」





長崎くんのことがあってから太雅が傍にいてくれて正直本当に助かっていた。


長崎くんとはとりあえず話し合ってから連絡先も消して、関わりも絶った。


そうすることが出来たのも太雅が支えてくれたお陰だ。


でも、そんな幸せな一時も……


私が前を向いたら終わってしまうんじゃないかって……


太雅はきっと変わりたい自分のために私から離れていくんだって……。



そう、思ってしまったら最後。


今、手に抱えていたその幸せとやらを自らの手で壊してしまいたい衝動に駆られた。





「……そう。
分かった」




長く長く感じた沈黙の後に太雅はそれだけ言って……。


フワリ、甘い香りを残して消えていく。



何度も引き留めたくなって……


でもこれでいいんだって何度も言い聞かせて。


太雅が一度でも引き留めてくれたら冗談だよって言えたかも知れない……。


それでも気付いた時に失ってしまうより、自らの意思で失ってしまったほうが楽だ。



だってそうやってずっと生きてきたから……











「……来ない、に決まってるよね」




それから数日しても太雅はもちろん屋上へはやって来ない。


当たり前だ。

突き放したのは自分なんだから。



1人きりの屋上がとても寒々しく感じたのはきっと……

冬のせいだけじゃない。





「太雅くーんっ。
今日暇ー?」


「ひまひまーっ」


「じゃああたし達と遊ぼ!」


「もちろんオッケー!」





……何がもちろんオッケーよ。


女ったらしめ。


自分を変えたいんじゃなかったわけ?




屋上から降りてきた私は目の前を女の子達に囲まれながら何食わぬ顔で通り過ぎた太雅を目撃。


あの日の太雅の言葉は……きっと嘘じゃない。


でも突き放した私が今更言えることじゃない。


関係無いと言われたらそこまでだ。




私が太雅に構われる前の日常に戻っただけ……。


それが私の選んだ道……


でも、どうしてか抱くはずのなかった気持ちを抱えながら……


その背中はとても愛しく映ってしまうのだ……



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