主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
――目が覚めた。

日々眠りが浅く、ゆっくり目を開けた主さまは、腕の中に息吹が居ないことにまた目を閉じて丸くなった。


「…息吹」


何が何でも守り抜くと誓い、本人が望まずとも今まで数多くの危険な目に遭ってきた。

特異な体質でよく身体を乗っ取られてはこちらを冷や冷やさせたが、本人はあまり気にすることがなく、何度も家族会議を開いていかに息吹を守り切るか話し合ったものだ。


その息吹をいつものように腕に抱いて眠ることができない――

それは精神的にあまり良いことではなく、本来寝ることが大好きな主さまは息吹が平安町へ行ってから深く眠ることができなくなっていた。


「…そもそもこの禁書が開けば何の問題もないのに」


蔵から持ち出した下弦が書き遺した書物は開こうとするだけで火花をまき散らす。

次世代に遺すために書き遺したくせにそれを見ることができないとはどういう了見だと何度も壁に投げつけて破損させようとしたが、全くの無傷。


ため息をついた主さまは、床に残る息吹の残り香にすんと鼻を鳴らして余韻に耽っていると、ほんの少しだけ障子が開いて中を窺う者が居た。


「…天満(てんま)か」


「父様…僕も一緒に寝ていいですか…?」


朔、輝夜、そして天満。

年子の三兄弟で、最も大人しく手を煩わせることのない優しい子なだけに寂しい思いを隠してきたようで、その感情が小さな身体の中で爆発しそうになったのか、普段部屋に来ない天満を呼び寄せた主さまは、我が子を床に引き込んで少し照れている天満の頭を撫でた。


「…寂しいのか?」


「はい…。父様は?」


「……俺もだ」


「お祖母様のお身体が良くなるといいですね」


地下の件を何も知らない天満は息吹が祖母のために家を離れていると思い込んでいる。

純粋に心配する心に少し癒された主さまは、あたたかい体温にすぐ眠ってしまった天満を抱いて同じようにまた浅い眠りに落ちた。
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