主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
数日後、息吹は幽玄町の屋敷に文を出した。

それを受け取った雪男が主さまの元に届けて読み終わるのを待つと、その文を受け取って目を通した。


「なになに…ふたりを泊まらせたい?」


「…それは構わないが突然どうしたんだ」


「ていうかさあ、主さまも一緒に行ったらいいじゃん。慣れないことやってんだから気が張り詰めてるだろ」


日がな蔵に籠もって書物とにらめっこしている主さまを気遣ってそう言ったものの、返事は分かっている。


「行かん。いいから黙って手伝え」


会えば連れて帰りたくなる――

その思いは雪男にも十分理解できたため、反論はせずに小さく了解と呟いて残された子たちの面倒を見るためその場を離れた。


「え?母様が私と兄さんを泊まらせたいと?」


「ああ、さすがに全員は無理だから、お前たちが最初な。行くか?」


「行く。お祖母様のお加減が悪いのか?」


「さあ、そんなことは書いてなかったけどな。行かせるけど病人がいるんだから騒ぐなよ」


喜ぶふたりだったが、天満も一緒に行きたかったらしく、俯いてしまった三男の頭をぐりぐり撫でた雪男はにかっと笑って励ました。


「お前は次の順番な。如月がきっと騒ぎまくるからお前が監視役になるんだぞ」


「うん」


如月とは天満の下の長女で、乱暴者で落ち着きがない。

任された形となった天満が力強く頷くと、雪男は朔たちの肩を押して庭へと押しやった。


「ほら、父ちゃんを見送ってやれ。あれでも母ちゃんが居なくて寂しがってるからお前たちが心の支えになるんだぞ」


百鬼夜行が始まる。

何が起ころうとも百鬼夜行だけは続けなければならず、主さまは後ろ髪を引かれる思いで今夜も屋敷を後にした。
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