主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
翌日山姫が着替えを包んでくれた風呂敷を手に持った朔と輝夜が晴明の屋敷を訪れると、息吹は満面の笑顔でふたりを出迎えてぎゅうっと抱きしめた。


「いらっしゃい。今日は母様と一緒に過ごそうね」


「はいっ」


元気の良い返事をしたふたりを百合に会わせてやったが――ふたりは日々やつれていく祖母の姿に若干恐怖を覚えていた。

妖は死の概念が薄い。

人が数十年で死んでしまうこと自体は知っているが、身近な者が死にゆく姿はとても怖くて、朔と輝夜は息吹の袖を握って離さなかった。


「おやおや、ふたりとも甘えん坊だねえ。どうだい、お祖母様と囲碁や将棋で遊ばないかい?」


「遊びますっ」


晴明も多忙なはずなのだが愛娘の息子――つまり孫たちが一晩泊まりに来たことをとても嬉しく思っていて、仕事を早めにこなして時間を空けてくれていた。


「まあ…ふたりとも元気でいいわねえ…。息吹…ふたりともあなたの笑顔にとてもよく似ているわ」


「お母さん…私と主さまの子たちはみんな可愛くて賢いんだよ。今日は朔ちゃんと輝ちゃんだけど、明日はまた違う子たちを連れてくるからね」


息吹が笑いかけると百合は安心したようにまた眠ってしまい、息吹はその場をそっと離れて台所に向かった。

朝昼晩しっかりご飯を食べているのかがとても気がかりだったため、朔たちの大好きな饅頭や煮物を作るため腕まくりをして料理を開始すると、傍に輝夜が寄って来てじいっと見つめてきた。


輝夜はとても聡く、全てを見通してしまうような目をすることがある。

まさにそんな目で見つめてきた輝夜に若干焦った息吹は、不自然にならないように視線を外して鍋に目を落とすと、芋を小さな手に握らせた。


「輝ちゃんお手伝いしてくれる?」


「はいっ」


…気付いていないようで、いい返事をした輝夜に思わずほっとした。

このままどうか気付きませんように――

そう祈り、一緒に料理をした。
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