主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
人と妖の間に生まれた半妖である我が子は、人としての性も忘れてほしくないため三食必ず料理を手作りして食べさせていた。

…正直言って我が子に薬を盛るのはかなり躊躇ってしまう。

そうせざるを得ないのは我が子の中でも特に聡い朔と輝夜が屋敷に戻ろうとする自分の意図に気付いて介入してきたりしないようにするためだ。


「ほら輝ちゃん、お祖父様が呼んでるから行っておいで」


「はい」


にこっと笑った輝夜が晴明の方へ駆けていったが、きっと入れ違いに朔がここにやって来るはずだ。

その前に薬を料理に盛らなければ。


――胸元から薬を取り出した息吹は、包み紙を開いて震える手で粉薬を芋の煮物に混ぜた。

これで晴明も寝てくれればいいのだが…一瞬だけでもいいと願って箸で混ぜていると、朔がやって来た。


「母様、今日は朝までずっと起きていてもいいですか?」


「遊びたいの?いいよ、でもお祖母様の所にはあまり行かないようにね」


嬉しそうに笑った朔の顔を見てずきんと心が痛んだ。


鍋に蓋をした後、少し見ない間に背が伸びた気がする朔と庭の見渡せる部屋に移動すると、晴明と輝夜が真剣な顔で将棋を指していた。


「ふうむ、輝夜の戦略に負かされてしまいそうだよ」


「主さまも得意だもんね、私が弱いからあんまり勝負してくれないけど」


「あ奴は手加減というものを知らぬからねえ。さてこの後は私は古書を扱う店に行こうと思うんだけれど、ついて来るかい?」


「本?行きます」


朔の目が輝くと、晴明は微笑みながら息吹を呼び寄せて朔を膝に乗せた。


「そなたが好みそうな恋物語が置いてあったから取り置きしてもらっているよ」


「本当ですかっ?じゃあ私も一緒に行こうかな」


「わあ、みんなで行きましょう、兄さん楽しみですね」


「うん」


朔たちが笑顔を見せる度に、ずきんと胸が痛む。

息吹は無理矢理にでも笑顔になって、彼らと喜び合った。

いや、喜ぶふりをした。
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