主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③
蝶よ花よと育てられた結果、長距離を歩いたことがないのに駆け足で平安町に舞い戻ったため、足の皮が破けていたり血豆ができていたりで痛いのを我慢しながらなんとか晴明邸にたどり着いた。
そっと観音扉の木製の戸を開けて中へ入るとしんと静まり返っていて、池に居る人魚にそっと話しかけた。
「みんな…寝てる?」
「寝てるよ」
礼を言って庭から居間に上がり、そこで三人川の字になって寝ている姿を見てほっとした息吹は、昔ここに住んでいた時に与えられていた自室へ行くと、どきどきしながら胸元から下弦の書いた書物を取り出した。
明かりの下でじっくり表装を見た。
かなり古めかしくて今にも崩れてしまいそうなのに、手にはどこか固い感触がして、ぱらりとめくった。
‟後世に遺すつもりはないが、この書物を開くことができた者に託す”
――そう書かれてあり、封印が施されていることを知った息吹は首を捻った。
封印を解く力など持ち合わせておらず、主さまももしかしたらまだ読めていないかもしれない。
持ち出したことが知られてしまえば大目玉を食らうことは分かっていたが――やはり、何かある。
「どうせ怒られるなら…見ちゃおう」
託されたから。
背筋を正して座って、さらにめくった。
細かく神経質な文字が羅列されていて、ちゃんと読もうと目を落とした時――文字よりもどこかの景色が頭に浮かんで、昏倒した。
しばらくしてからようやく目覚めた三人は、屋敷の中に妙な気配を感じてざわりを背筋が泡立つと、輝夜が脱兎の如く駆けて息吹の部屋に向かった。
「輝夜!?」
「母様が!」
見えていた。
息吹が――
母が危ない目に遭っている光景を。
そっと観音扉の木製の戸を開けて中へ入るとしんと静まり返っていて、池に居る人魚にそっと話しかけた。
「みんな…寝てる?」
「寝てるよ」
礼を言って庭から居間に上がり、そこで三人川の字になって寝ている姿を見てほっとした息吹は、昔ここに住んでいた時に与えられていた自室へ行くと、どきどきしながら胸元から下弦の書いた書物を取り出した。
明かりの下でじっくり表装を見た。
かなり古めかしくて今にも崩れてしまいそうなのに、手にはどこか固い感触がして、ぱらりとめくった。
‟後世に遺すつもりはないが、この書物を開くことができた者に託す”
――そう書かれてあり、封印が施されていることを知った息吹は首を捻った。
封印を解く力など持ち合わせておらず、主さまももしかしたらまだ読めていないかもしれない。
持ち出したことが知られてしまえば大目玉を食らうことは分かっていたが――やはり、何かある。
「どうせ怒られるなら…見ちゃおう」
託されたから。
背筋を正して座って、さらにめくった。
細かく神経質な文字が羅列されていて、ちゃんと読もうと目を落とした時――文字よりもどこかの景色が頭に浮かんで、昏倒した。
しばらくしてからようやく目覚めた三人は、屋敷の中に妙な気配を感じてざわりを背筋が泡立つと、輝夜が脱兎の如く駆けて息吹の部屋に向かった。
「輝夜!?」
「母様が!」
見えていた。
息吹が――
母が危ない目に遭っている光景を。