主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
引き留めようとする朔の制止を振り切って庭に下りた輝夜は、そのまま竹林となっている裏庭に回って闇夜の中ひとり裸足で歩いていた。


特にどこかを目指しているわけではなかったのだが、きっとこうしていると話しかけてくるだろう――そう思っていた。


「呼んだか?声が聞こえた気がしたが」


「父様を今すぐ連れて来てほしいんです。できますか?」


長く伸びた竹に寄りかかって微笑んでいる男を知っていた。

時々煙のように現れては声をかけてくる金髪碧眼の男――そう、地下に居るあの‟渡り”と同じ髪と目の色をした男。

何故か困っている時や窮地に陥っている時手を貸してくれる謎の男だが、なんとなくではあるが長い付き合いになるだろうと思っていた。


「それはいいが、お前は俺が何を求めているのか知っているのか?」


「私が何を為さなければいけないのかは分かっています。あなたが教えてくれるんでしょう?」


「なんと聡いことよ。いいのか?愛する兄や父母や弟妹たちと離れ離れになることになるんだぞ」


「それも知っています。私に欠けているものも、全て全て…知っています。母様を救わなければ。あの人たちを…会わせなければ」


――金髪碧眼の男は少し考えるように夜空を見上げると、俯いている輝夜に近寄って肩をぽんと叩いた。


「お前には様々な特別な力が備わっている。そのうちのひとつの使い方を教えてやるから、お前自身が父に会いに行け」


「え…私がですか…?そんなことが可能なんですか?」


「可能だとも。いいか輝夜、お前は万能なんだ。できることは多く、できないことは少ない。父母たちと離れることになったらちゃんと全て教えてやろう」


「…はい」


皆の笑顔が脳裏をよぎった。

それでも離れなければならない――


自分自身の役目を知っているから。
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