主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③
寝るのが好きな主さまだが…この日ばかりはさすがに寝付けず起きていた。
息吹が帰ってきたのもすぐに分かってはいたのだが、敢えて自ら出向くことはせずに寝転んだまま息吹が部屋に来るのを待っていた。
「主さま、ただいま」
「…」
「寝てるとこごめんね。でも大切な話があって…」
それでも動かない主さまが熟睡していないことは気付いていたが…息吹は無言のまま主さまの懐に潜り込んで、真一文字に結ばれている唇をじっと見つめた。
「私が言いたいこと、もう分かってるんでしょ?」
「…分からん。ちゃんと言え」
「お母さんに会ってきたの。でね、色々お話して…お母さんがもう長くないのが分かったの。だから…傍に居てあげたくて」
「…それで?」
「それで、私、お母さんが身罷るまで傍に居ようと思って。親孝行なんてなんにもできてないし、このままお別れするのは嫌」
――そら見たことか。
決意に満ちた目をした息吹には何を言っても無駄だ。
こうして相談をしに来ていても、本人の意思は固く決まっていて、曲げようとしない。
「…俺が反対したら?」
「反対するの?」
「したら、の話だ」
「ここから毎日通います。朝早くに出て、夕方戻って来て、主さまをお見送りして、その後また平安町に戻って…」
「…いや、いい。分かった」
ただでさえ多くの子に恵まれて家事も忙しく、それをこなした後通わせるのは酷だ。
それに…自分が反対などしないと何故か信じた目をしていた。
「分かってくれたの?すっごくすっごく説得するの大変だと思って覚悟してきたのに」
「…俺からしばらく離れる気なら、それ相応の覚悟をしろ」
「え…」
主さまは獰猛な目つきをして息吹の帯に手をかけて顔を真っ赤にさせた。
「ちょ、ちょっと、主さまっ」
「覚悟がないなら行かせん」
本当は片時も離れたくはないのに、この娘ときたら――
――嫌がる息吹の顔も好物な主さまは、牙をちらつかせながら息吹の首筋に顔を埋めた。
息吹が帰ってきたのもすぐに分かってはいたのだが、敢えて自ら出向くことはせずに寝転んだまま息吹が部屋に来るのを待っていた。
「主さま、ただいま」
「…」
「寝てるとこごめんね。でも大切な話があって…」
それでも動かない主さまが熟睡していないことは気付いていたが…息吹は無言のまま主さまの懐に潜り込んで、真一文字に結ばれている唇をじっと見つめた。
「私が言いたいこと、もう分かってるんでしょ?」
「…分からん。ちゃんと言え」
「お母さんに会ってきたの。でね、色々お話して…お母さんがもう長くないのが分かったの。だから…傍に居てあげたくて」
「…それで?」
「それで、私、お母さんが身罷るまで傍に居ようと思って。親孝行なんてなんにもできてないし、このままお別れするのは嫌」
――そら見たことか。
決意に満ちた目をした息吹には何を言っても無駄だ。
こうして相談をしに来ていても、本人の意思は固く決まっていて、曲げようとしない。
「…俺が反対したら?」
「反対するの?」
「したら、の話だ」
「ここから毎日通います。朝早くに出て、夕方戻って来て、主さまをお見送りして、その後また平安町に戻って…」
「…いや、いい。分かった」
ただでさえ多くの子に恵まれて家事も忙しく、それをこなした後通わせるのは酷だ。
それに…自分が反対などしないと何故か信じた目をしていた。
「分かってくれたの?すっごくすっごく説得するの大変だと思って覚悟してきたのに」
「…俺からしばらく離れる気なら、それ相応の覚悟をしろ」
「え…」
主さまは獰猛な目つきをして息吹の帯に手をかけて顔を真っ赤にさせた。
「ちょ、ちょっと、主さまっ」
「覚悟がないなら行かせん」
本当は片時も離れたくはないのに、この娘ときたら――
――嫌がる息吹の顔も好物な主さまは、牙をちらつかせながら息吹の首筋に顔を埋めた。