主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
「母様…なかなか戻って来ないな」


「兄さん…私たちって何人兄弟になるんでしょうねえ」


「え?」


縁側に座って足をぶらぶらさせながら団子を頬張っていた朔と輝夜が暇を持て余していると、それを見つけた雪男が箒を手ににじり寄ってきた。


「あいつ俺たちに庭掃除させる気だ」


「逃げろっ」


「待てこらー!」


所詮子供の足。

雪男にすぐ追いつかれて無理矢理箒を手に握らされた朔たちは仕方なしに庭を掃きながら雪男を見上げた。


「母様が戻って来ないんだ。お前呼んで来い」


「はあ?あの部屋怖いから駄目。息吹が大事な話してんだろ」


「話は多分もう終わってますけど」


輝夜がぽつりと呟いたが雪男と朔はその時池の鯉に餌をやっていて聞こえていなかった。

――輝夜の能力はまだ拙く、はっきり見えている時とそうでない時がある。

この時主さまと息吹の様子ははっきり見えていたが、幼いながらに見える光景を遮断して同じように餌を撒く。


「お祖母様は何をしたら喜ぶかな」


「私たちが行くだけで喜んでくれるでしょうけど…あの様子ですと一緒に外を出歩くのは難しいでしょうね」


「そっか。父様は母様のことが大好きだから、お祖母様に取られたと思って怒ってるんじゃないかな」


「こらこらお前たち、主さまはそんな心の狭い男じゃないぞ。…多分」


「お前側近だろ。父様のこと悪く言っていいのか?」


「平気平気。たとえ本気で喧嘩したとしても互角になる位の自信はあるからな」


あの気難し屋の父の傍を任されているのだからよっぽど強いのは分かるし、実際手合わせをしていてもものすごく手加減されているのも知っている。


ふたりは主さまが寝ている部屋をじっと見つめて息吹が出てくるのを待ちながら、二人一気に箒を振り上げて雪男に襲い掛かり、こてんぱんにされて庭石に座りながら戦略を練った。
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