主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③
結界を張り直した主さまは、押し黙っている雪男を蔵の方へと連れ出した。
「蔵?何するんだ?」
「すべての文献はこの蔵に収められている。俺が代を譲り受けた時にざっと目は通したが、とても読み切れん量だったから重要な文書だけ見た。…あの女のことが書かれているものが残されているはずだ」
「花、と言ったな。当時の当主が残しているものを探せばいいんだな?」
「…ああ。言っておくがこのことは…」
「言わないって。ああ息吹がここを離れてて良かった」
自分の心情を口にした雪男をぎらりと睨みつけた主さまは、当主にしか持つことを許されていない鍵を使って蔵を開けた。
蔵の中にはとても貴重なものや、膨大な量の文献が残されている。
あまり本を読むのが好きではない主さまはそこで盛大なため息をつくと、腰を据えて紐解きにかかった。
――そしてその様子をこっそり盗み見ていた者が居た。
「兄さん、確かにあそこに入っていきましたよね」
「ああ、蔵の中に入った。俺たちはあそこに入れない。…雪男…ずるい…」
「雪男は側近ですからね。私たちに知られてはいけないことなんでしょうか」
「多分そうだと思う。輝夜…お前地下に行ったことあるか?」
朔は聡い。
輝夜もかなり頭が回るが、父と雪男がこそこそしながら地下に降りていくのを実は見ていた朔は、輝夜の手を引いて階段の方を指した。
「蔵には入れないから下に行こう。何かあるみたいだけど、何があるのかは知らない」
ふたりは手に手を取り合って階段へ向かう。
そしてその前に立ち塞がったのは――銀だった。
「何やってるんだ餓鬼ども」
「邪魔するなぎん」
「下に行ってはいけないと十六夜たちから口をすっぱくして言われているはずだが?」
九尾の銀。
かつて世を震撼させた白狐はわざと牙を見せて笑うと、ふたりの首根っこを掴んだ。
「勝手は許されんなあ。雪男の代わりに俺が鍛錬してやる。ふたりまとめてかかって来い」
「生意気な」
むきになった朔が爪を鋭く尖らせて構えると、輝夜も銀の後方に回り込んでやる気満々になり、気を逸らすことに成功した銀はにやりと笑って小さいふたりを激しく見下ろした。
「蔵?何するんだ?」
「すべての文献はこの蔵に収められている。俺が代を譲り受けた時にざっと目は通したが、とても読み切れん量だったから重要な文書だけ見た。…あの女のことが書かれているものが残されているはずだ」
「花、と言ったな。当時の当主が残しているものを探せばいいんだな?」
「…ああ。言っておくがこのことは…」
「言わないって。ああ息吹がここを離れてて良かった」
自分の心情を口にした雪男をぎらりと睨みつけた主さまは、当主にしか持つことを許されていない鍵を使って蔵を開けた。
蔵の中にはとても貴重なものや、膨大な量の文献が残されている。
あまり本を読むのが好きではない主さまはそこで盛大なため息をつくと、腰を据えて紐解きにかかった。
――そしてその様子をこっそり盗み見ていた者が居た。
「兄さん、確かにあそこに入っていきましたよね」
「ああ、蔵の中に入った。俺たちはあそこに入れない。…雪男…ずるい…」
「雪男は側近ですからね。私たちに知られてはいけないことなんでしょうか」
「多分そうだと思う。輝夜…お前地下に行ったことあるか?」
朔は聡い。
輝夜もかなり頭が回るが、父と雪男がこそこそしながら地下に降りていくのを実は見ていた朔は、輝夜の手を引いて階段の方を指した。
「蔵には入れないから下に行こう。何かあるみたいだけど、何があるのかは知らない」
ふたりは手に手を取り合って階段へ向かう。
そしてその前に立ち塞がったのは――銀だった。
「何やってるんだ餓鬼ども」
「邪魔するなぎん」
「下に行ってはいけないと十六夜たちから口をすっぱくして言われているはずだが?」
九尾の銀。
かつて世を震撼させた白狐はわざと牙を見せて笑うと、ふたりの首根っこを掴んだ。
「勝手は許されんなあ。雪男の代わりに俺が鍛錬してやる。ふたりまとめてかかって来い」
「生意気な」
むきになった朔が爪を鋭く尖らせて構えると、輝夜も銀の後方に回り込んでやる気満々になり、気を逸らすことに成功した銀はにやりと笑って小さいふたりを激しく見下ろした。