主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
甘いものをたべて落ち着いた輝夜に安心した朔は、子供に対して大人気なく手加減しない銀にいらいらしながら蔵の方を見ていた。


「朔ちゃん…大丈夫?青あざいっぱいできてる」


「大丈夫。すぐ治るから」


妖は人とは違って治癒能力が高い。

明日には恐らく消えているであろう青あざは腕や足に沢山できていて、若葉は薬箱を取り出してきて薬草を塗り込みながら銀の代わりに謝ってきた。


「銀ちゃんがやったんでしょ?後で怒っておくから」


「あいつはあいつなりに俺たちを止めようとしてた。…きっとまだ知らなくていいことなんだ。でも知りたいけど」


若葉は朔よりひとつ年上だがか弱く熱もよく出す。

いつも傍に居てくれる息吹がしばらく留守にするため、自分が守るより他ない。

銀はいつもふらりと居なくなるため、若葉が独りで過ごすことも多く、それを許せない朔は饅頭を食べ終えて隣に来た輝夜の手を握った。


「俺たちがいるから心配するな」


「うん、ありがとう」


――主さまたちはすぐ戻って来るだろうと思っていた。

だが寝るのが大好きな主さまは夕暮れ時になるまで戻って来ることはなく、朔の不安が増す。


「兄さん…」


「輝夜、何も見えないか?」


「ええ…何も。ごめんなさい」


「お前が謝ることない。無理に力を使おうとするなよ、俺の方こそごめん」


兄が強くあろうとするのは自分のせいだ。

性根の優しい輝夜は朔の強さに憧れ、また自分は今後もそうなれないだろうと分かっていた。

そして自らが今後成し遂げなければならないことも、分かっていた。


「あ、戻って来ましたよ」


雪男が欠伸をしながら戻って来たが…埃まみれだ。

続いて見えた主さまも何やら難しい顔をしていて、朔と輝夜が雪男に駆け寄る。


「何してたんだよ」


「え?あー、いや、ちょっと探し物してただけ」


…問い詰めてやる。

朔の目が光り、それを見た雪男が逃げるようにして母屋に向かうとふたりが後を追いかけて行き、子供たちが関わることを由としない主さまは押し黙ったままさらにその後を追いかけた。
< 56 / 135 >

この作品をシェア

pagetop