甘いチョコとビターな彼
『……あ、英語のノート忘れた』
気づいたのは、友達と別れて玄関まで来た時だった。
『あー、どうしよ。あれないと今日の宿題できないんだよな……取り行くか』
放課後は一目散に家に帰って父さんにチョコ作りを教わっていた俺は、こんな少しの時間でも惜しく感じていた。
『あいつら、まだいるかなー』
さっきまで楽しく話していたのを1人思い出しながら、教室のドアに手をかける。
『……辰巳、今日もこねーのかよー』
『ノリ悪いよなー』
『…!』
力が入りかけていた手を、瞬時に緩めた。
『辰巳はいいよなぁー。勉強も運動もできて』
『今日のサッカーも、ほんとに2ゴール決めて女子の注目浴びてたしな』
『あいつばっかズルいよな』
『才能ってやつかねぇ』
『つーか、あんなにスポーツできんのに部活入んねーのかよ!』
『それな。チョコ作りとか……』
『父親が専門店やっててチョコ作ってるのがそんなに自慢になんのかねー』
『女子は羨ましいとか、凄いとか言ってるけどさー』
『正直、男がチョコ作りとかダサくね?』
『あはは!それわかる!かっこ悪いよなー』
『っ…!』