甘いチョコとビターな彼


『お、辰巳!おかえり』


『ただいま……』


『…?どうした、学校で何かあったか?』


『……別に、何もないよ』


咄嗟に、少し冷たい言葉がこぼれ落ちた。


父さんに顔を向けることができなくて、俺は視線を落とす。


『そうか?……じゃあ今日もチョコ作るか!』


『…………作らない』


『え…?』


『っ、』


顔を上げなくても、父さんの声色で悲しさが伝わってきた。
それでも俺は、あいつらの言葉を思い出していた。


『もうチョコは作らない。だからもう、父さんの店にも来ないから』


『辰巳、急にどうしたんだ?』


『父さんの作ったチョコなんか嫌いなんだよ!チョコなんてっ、父さんなんて大嫌いだ……っ!』


『辰巳……』


『────っ』


取り返しのつかないことを言ってしまった。
そう頭ではわかっていても、俺は気づけば逃げるように父さんの前から消えていた。

< 32 / 71 >

この作品をシェア

pagetop