甘いチョコとビターな彼
『お、辰巳!おかえり』
『ただいま……』
『…?どうした、学校で何かあったか?』
『……別に、何もないよ』
咄嗟に、少し冷たい言葉がこぼれ落ちた。
父さんに顔を向けることができなくて、俺は視線を落とす。
『そうか?……じゃあ今日もチョコ作るか!』
『…………作らない』
『え…?』
『っ、』
顔を上げなくても、父さんの声色で悲しさが伝わってきた。
それでも俺は、あいつらの言葉を思い出していた。
『もうチョコは作らない。だからもう、父さんの店にも来ないから』
『辰巳、急にどうしたんだ?』
『父さんの作ったチョコなんか嫌いなんだよ!チョコなんてっ、父さんなんて大嫌いだ……っ!』
『辰巳……』
『────っ』
取り返しのつかないことを言ってしまった。
そう頭ではわかっていても、俺は気づけば逃げるように父さんの前から消えていた。