甘いチョコとビターな彼
「そっかぁ、違うのかー。それじゃ、今年も猪口くんは大変だね」
「え?どうして?」
「あ・れ」
「あれ?」
ナルちゃんが指す方を見れば、さっきまで廊下に沢山いたはずの女子たちが物凄い勢いで散らばっていっていた。
「な、なにあれ……」
「猪口くんにチョコを渡そうとしてる女子たちだろうね」
「え?」
チョコくんに……?
「前に言ったでしょ。文武両道でイケメンの猪口くんは、去年女子に凄い数のチョコを貰ってるって」
「あ、うん……でもどうして、あんなところに?」
「もちろん、さっきの噂が本当かどうか知るためでしょ。この距離なら私たちの会話も聞こえてたんだろうね」
「え?」
「もぅ、鈍感。いい?あの女子たちは、梓が猪口くんと付き合ってないって知ったから、猪口くんに猛アタックできるんだよ」
「??それって……私が付き合ってたら、みんなチョコくんにアタックできなかったってこと?」
「そうだよ。梓みたいに可愛い子だったら誰も叶わないもん」
「…??」
「……梓はもっと、自分の可愛さに気づくべきだと思う」
「へ?」
ナルちゃんのあきれ声に、私は思わず口をへの字に曲げた。