甘いチョコとビターな彼
「あの笑顔を見て本当にびっくりしたよ。猪口くんとは去年一緒のクラスだったけど、あんなに笑ってるのは1度も見たことなかったんだもん。
……でもそれって、彼にとってよくないことだったのかな?」
「え…?」
「私はそうは思わないよ。だって猪口くん、梓と出会う前よりも今の方がずっといい顔してるもん。
それって、梓が猪口くんを変えてくれたってことじゃないの?」
「っ、」
「あの笑顔を見て前の方がいいなんて言う人、絶対にいないよ。それに、他人の私がこんなに言うんだから、当の本人が今の姿を望んでないなんてことあるわけないでしょ」
「ナルちゃん……」
「元気でた?」
「うん…ありがと」
そうだよね。
チョコくんがあんなに笑顔を見せてくれるようになったのに、それを変えた私が否定したらダメだよね。
「それで?」
「え?」
「梓は猪口くんのことが好きなんでしょ?」
「えっ!?」
「隠してるつもりだろうけど、バレバレだよ」
「うー…」
うまくそこだけは避けて話したはずなのに……。
私って顔に出やすいのかな?
「今の梓の気持ちは?
彼と、終わるかもしれない友達のままでいいの?」
「……ううん。私は、私がチョコくんを好きな気持ちを、ちゃんと伝えたい」
「うん、いい顔。ほら!それなら早く行かないと、もうお昼の時間が来るよ!」
「え、うそ!?ほんとだ!
ごめん、ナルちゃん!ありがとう!」
「いってらっしゃい、梓!」
私はナルちゃんに見送られながら、晴れ晴れとした気持ちで保健室を後にした。