夢うつつ

拾壱

 通常の話であれば菜月はけたけたと笑って話をする。ことに陽光とは店番しながら話すようだ。これが黒龍の場合はそうもいかない。結構黙りこくっている。緋炎にはというと、少し警戒が解けてきたかなと思う素振りが出てきた。
「へ?あいつがロマンティスト?んなわきゃない」
「だって、なんかの折に後生大切にやく……むぐぐ」
 店番だろうがなんだろうが、こんなところで話して欲しくない。速攻で口を塞いだ。
「おいおい、お前が塞いだら鼻毎塞がるぞ?そんなに聞かれたくない話なら、菜月ちゃんの前でもするなよ」
「やっかましいわ!!」
 ちょうど、聖が呼んでいた。悔しいがここを立ち去るしかない。
「菜月ちゃん、えらい。あいつの図星ついたわ」
「え?」
「昔っからそう。図星指されるとああなるんだ」
 菜月まで呼んでいなかったが、これ以上二人を一緒にしたらそれこそ次は酒の肴だ。
「気が利くと言いたいところだが、一体何を店番中に話している?」
「えっと、緋炎さんがロ……」
 また口を塞ぐ羽目になるとは思っていなかった。
「緋炎、そんなに聞かれたくない話なら、するな」
 そこまで菜月の口が軽いと思っていなかったのだ。
「女は基本口が軽い、違うか?」
 その通りなのだが。ちょうど菜月の携帯が鳴り響いた。
「出ていいですか?」
「構わないよ」
「もしもし……うん。…………え?……えぇ?……はぁい。分かった。とりあえず言ってみる。あとでかけ直すから。じゃあ」
 そして電話を切ってこちらを見据えてきた。
「あの……家で急用が入ったそうなので、帰っていいですか?」
「急用?」
「はい。いつもお世話になってなってる方がいらっしゃったそうなので」
「お世話になってる方?」
 ただ菜月はこくりと頷くだけだった。
「あたし、その方のこと詳しく知らないので」
「なら仕方ないね。今日は帰っていい」
 その言葉に一礼して菜月は帰っていった。
「あと、つけねぇのか?」
「つけても意味がない。帰る家はいつも一つ」
 黒龍の言葉に聖があっさりと答える。
「だとそこを張ってるというわけか」
「のはずなんだが……引っかかる」
 その日は出かけるといっただけに、一度家に戻ってから出かけたと報告が入る。ただ、出かけた先は不明。
「……何を隠す?あの少女は」
 聖の警戒も強まっていく。
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