夢うつつ

 翌日、詰問までいくと思わなかった。
「この写真の女性との関係は?俺は妹だと思いたいが」
 もう少し質問にひねりを出せばいいものを。馬鹿げている。
「さて、あなた方に詰問されるいわれはありませんが」
「お前が移動してからずっと、援助交際の噂があった」
 その言葉に思わず鼻で笑ってしまった。
「それに関しては誤情報だとだけ、言っておきます」
「では、女性は誰だ?」
「妹に歳の近い女性です。それが?」
「妹は?」
「今、自分の側にはいませんので」
 その瞬間紅蓮の顔から血の気が引いていく。すぐにどういう状況か思い当たったのだ。
「あぁ、それから『援助交際』とは確か、肉体関係を伴うものでなかったでしょうか?生憎ですが、一度も触れた事はありませんが」
 噂の出所はあのあとをつけていた男とそれから途中で走っていった女だろう。
「馬鹿馬鹿しい限りだ。せめてあの男と同系列で扱って欲しくないものですが」
「ふざけるな!」
 こういうものに向かない男だ。紅蓮が怒鳴りだした。
「まったく、もう少し丸くなられた方がいい。上に立つものとしてそれではどうかと。失礼します」
 話は終わっていないだろう。だが、そんなものに付き合ってやるほど、樹杏は優しくない。
 すぐに入り口を塞いだのは華弦だった。
「何のつもりですか?」
「一つだけ、答えてやって欲しいのですが」
 それだけ言うと他の重役たちを下げていく。
「あなたは援助交際とかと無縁だと思います。だから総括責任者が聞きたいことは一つなんです」
 それを他の重役たちが驚いて聞いていた。
「……ちい姫は、無事なのか?祖母は昨日、会ったと……」
 誰もいなくなった部屋で、悔しそうな顔をして紅蓮が言う。
「情報の通りです。では」
 取り交わした約束など、一度そちら側が拒否しておいて何言いやがる。それが樹杏の本心だった。

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