夢うつつ
弐
紅蓮の住むマンションに子連れで来ていながら、のんびりと構えるのが二人いるのはいつもの事だ。
「ってか、紅蓮誰?この女の子」
勝手に人の手帳を漁るなと言いたくなる。子連れで来る悪友の一人、日和 美恵が写真を紅蓮の目の前に差し出した。
「幼馴染」
間違いではない。これは確か約束をこぎつけたあと、疾風に撮ってもらったものだ。
「いや~ん、可愛い……ってか、あんたにもこんな可愛い時期があったのね」
「やっかましいわ!!」
思わず写真を取り上げた。溝延 啓治と田中 布人が少し離れたところで苦笑していた。
「美恵ちゃんって、旦那の手帳とかもあざく?」
「華弦さんの?それはまだしてない。今の状況だとなかなか会えないし」
「会えるようになったらするつもりか!?」
啓治の質問にあっけらかんとして美恵が答えるため、思わず突っ込みを入れた。
美恵は幼児教育を学ぶため短大へ、そして昨年三月に卒業し、めでたく一回り上の男と結婚したのだ。啓治は大学一年の時に出来ちゃった婚をしつつも今年、大学四年。伴侶は旧姓上野 好、紅蓮の側近でこちらも好が十歳上である。布人は現在料理人になるため修行の身というバリエーションにとんだ仲間たちである。
「何であんな可愛かった子供がこんな捻くれた女心の分からない、最悪な男に成長するわけ?出来ることならちっちゃい頃のまま時間が止まればよかったのに」
その言葉に啓治と布人が豪快に笑った。
「確かにさ、小学生のときの卒業アルバムとか見ると可愛いと思うよ?だけどさ、疾風さんはともかく育ての親があの人だ。無理無理、すっげー性格似てんもん」
「そうなのか。当主たちが預け先間違ったのか」
「おい」
「美恵、酷い言いようだね」
「あ、白銀の呪術師様、お久し振りです。でも事実ですよ?あんな可愛い男の子がこうなったら、誰だって言いたくなりますから」
その言葉に白銀の呪術師こと、紅蓮を途中から育ててくれた聖が苦笑していた。白銀の呪術師と呼ばれる所以は、腰まである銀色の髪に、中性的な顔立ちと白い肌。そしてそれを助長させる赤い瞳。アルビノのためとはいえ、周囲の注目を一瞬で持っていく。
「師父、どうした?」
紅蓮は聖を「師父」と呼ぶ癖がある。ちょいちょいと手招きをされた。つまりこの面子に聞かれたくない話をしに来たのだ。
「で?」
「馬鹿か、お前は」
二人きりになったら唐突に言う。
「婚約の話を聞いたよ。あの男の子供と婚約しようなどとは。それを何故……」
「子供の頃の約束。ずっとそれだけを想っていた」
でかいため息が聖の口から出てきた。
「お前は自分の婚約者の父親を殺める計画に加担するのか?」
「それと婚約は別の話だ。それに……流動的になったし」
「紅蓮?」
「保護者から条件が出た。ちい姫が約束を覚えていて、了承した時に限ると……」
どれ位それが悔しかったか。あの時、次の当主に紅蓮を指名すると言われたとき、紅蓮は真っ先にそれを条件にしたというのに。
「ちい姫?」
「俺の前ではずっと自分のことを『ちい姫』と言っていた。それだけだ」
それに何かあった場合、ちい姫を守りたかった。
「分かった。私は計画を変えるつもりはない。それだけ言っておく」
「俺も変えるつもりはない」
優しく頭に手を置いてくる。さすがに外見年齢が追いついてきたため、少し恥ずかしい。聖の外見年齢は十年前から変わることなく、二十後半である。紅蓮は今年二十二になる。聖はヒトでないため、年齢は不詳。
「そうそう、お前の呪術に合わせるためパートナーを雇うつもりだ」
「は?」
「あの欲深い男が相手だ。それに樹杏も帰ってきてしまった。少しでもこちらの層を厚くする」
「分かった」
それだけ言って聖は出て行った。
「ってか、紅蓮誰?この女の子」
勝手に人の手帳を漁るなと言いたくなる。子連れで来る悪友の一人、日和 美恵が写真を紅蓮の目の前に差し出した。
「幼馴染」
間違いではない。これは確か約束をこぎつけたあと、疾風に撮ってもらったものだ。
「いや~ん、可愛い……ってか、あんたにもこんな可愛い時期があったのね」
「やっかましいわ!!」
思わず写真を取り上げた。溝延 啓治と田中 布人が少し離れたところで苦笑していた。
「美恵ちゃんって、旦那の手帳とかもあざく?」
「華弦さんの?それはまだしてない。今の状況だとなかなか会えないし」
「会えるようになったらするつもりか!?」
啓治の質問にあっけらかんとして美恵が答えるため、思わず突っ込みを入れた。
美恵は幼児教育を学ぶため短大へ、そして昨年三月に卒業し、めでたく一回り上の男と結婚したのだ。啓治は大学一年の時に出来ちゃった婚をしつつも今年、大学四年。伴侶は旧姓上野 好、紅蓮の側近でこちらも好が十歳上である。布人は現在料理人になるため修行の身というバリエーションにとんだ仲間たちである。
「何であんな可愛かった子供がこんな捻くれた女心の分からない、最悪な男に成長するわけ?出来ることならちっちゃい頃のまま時間が止まればよかったのに」
その言葉に啓治と布人が豪快に笑った。
「確かにさ、小学生のときの卒業アルバムとか見ると可愛いと思うよ?だけどさ、疾風さんはともかく育ての親があの人だ。無理無理、すっげー性格似てんもん」
「そうなのか。当主たちが預け先間違ったのか」
「おい」
「美恵、酷い言いようだね」
「あ、白銀の呪術師様、お久し振りです。でも事実ですよ?あんな可愛い男の子がこうなったら、誰だって言いたくなりますから」
その言葉に白銀の呪術師こと、紅蓮を途中から育ててくれた聖が苦笑していた。白銀の呪術師と呼ばれる所以は、腰まである銀色の髪に、中性的な顔立ちと白い肌。そしてそれを助長させる赤い瞳。アルビノのためとはいえ、周囲の注目を一瞬で持っていく。
「師父、どうした?」
紅蓮は聖を「師父」と呼ぶ癖がある。ちょいちょいと手招きをされた。つまりこの面子に聞かれたくない話をしに来たのだ。
「で?」
「馬鹿か、お前は」
二人きりになったら唐突に言う。
「婚約の話を聞いたよ。あの男の子供と婚約しようなどとは。それを何故……」
「子供の頃の約束。ずっとそれだけを想っていた」
でかいため息が聖の口から出てきた。
「お前は自分の婚約者の父親を殺める計画に加担するのか?」
「それと婚約は別の話だ。それに……流動的になったし」
「紅蓮?」
「保護者から条件が出た。ちい姫が約束を覚えていて、了承した時に限ると……」
どれ位それが悔しかったか。あの時、次の当主に紅蓮を指名すると言われたとき、紅蓮は真っ先にそれを条件にしたというのに。
「ちい姫?」
「俺の前ではずっと自分のことを『ちい姫』と言っていた。それだけだ」
それに何かあった場合、ちい姫を守りたかった。
「分かった。私は計画を変えるつもりはない。それだけ言っておく」
「俺も変えるつもりはない」
優しく頭に手を置いてくる。さすがに外見年齢が追いついてきたため、少し恥ずかしい。聖の外見年齢は十年前から変わることなく、二十後半である。紅蓮は今年二十二になる。聖はヒトでないため、年齢は不詳。
「そうそう、お前の呪術に合わせるためパートナーを雇うつもりだ」
「は?」
「あの欲深い男が相手だ。それに樹杏も帰ってきてしまった。少しでもこちらの層を厚くする」
「分かった」
それだけ言って聖は出て行った。