政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
♡彼のお部屋に引っ張り込まれてます♡
「……あーっ、おふくろのヤツ、油断も隙もねえっ!」
レジメンタルタイを緩め、するするっと外した将吾さんが呻いた。
「ほんとはスウェーデンでもアメリカでも二十四日の晩メシが家族とのクリスマスディナーなんだぜ。だけど、おふくろが帰国する飛行機のチケットが取れなくて帰れないって言うから、今日にしてやったのに」
ここは二階にある彼の部屋である。引っ張り込まれたのだ。
……といっても、わたしが彼の興味を引くなんてことはありえないから、二人っきりで彼の部屋にいてもなんの心配もない。
だからこそ、彼はわたしを自分の部屋に連れて来たのだ。今だってあたりまえのように、わたしの目の前で着替えてるし。
わたしは彼から受け取ったスーツとネクタイをハンガーに掛けてクローゼットにしまいながら、先刻教えてもらった彼の幼い頃のエピソードを思い出し、ふふふ…と黒い笑みを浮かべていた。
「な…なんだよ、その笑いは」
将吾さんはビームズのマルチボーダーのニットを頭からかぶった。下はディーゼルの黒デニムだ。
わたしが要らぬことを聞いたと思って、少し焦ってる。
……グッジョブ、お義母さま。
「どうせ、二十四日は遅くまで仕事だったじゃない……あ、そうだ」
将吾さんの部屋は、アール・ヌーヴォーの壁紙やヘリンボーンの形に寄木細工されているダークブラウンの床はさすがにクラシカルだが、家具類やファブリックはコンランショップのもので統一されてるそうで、モダンなテイストになっていた。
わたしはコンランブルーのクッションをよけて、オフホワイトのカウチソファに腰かける。
なかなか快適な座り心地だ。さすが、コンランショップ。
着替え終えた将吾さんも、わたしの隣に腰を下ろした。そういえば、スーツ姿以外の格好を見るのは初めてだ。図体はデカいが(態度も)、やや童顔なので、三十歳という年齢よりも若く見えた。
わたしは、ボリードをごそごそして、黄色いリボンのついた細長い箱を取り出し、彼に渡す。
「はい、エンゲージリングのお返し兼クリスマスプレゼント」
「……『兼』?」
将吾さんが眉を顰める。
自分だって、エンゲージリングとクリスマスプレゼントを兼ねたじゃん。
イヤリングの「おまけ」はくれたけれども。
「開けていいか?」
「どうぞ」
将吾さんが黄色いリボンをほどき、ラッピングされていた紙を破いていく。
中から黒いケースがあらわれた。