政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
Chapter 5

♡同僚から政略結婚を相談されてます♡


クリスマスの翌朝、なぜか副社長(就業時間中なので)の機嫌がすこぶる悪かった。

「……お呼びでしょうか?」

わたしが執務室に呼ばれて入ると、島村さんがすっと前室へ下がった。

「なぜ指輪をしていない?」

マホガニーのデスクで、副社長は書類に目を落としたまま訊いた。

「は?」

「せっかく買ってやった婚約指輪だ。婚約中はずっとつけておくもんだろ?」

……まさか、機嫌が悪い原因って、それ?

「あんな派手な指輪、仕事ではつけられません」

……どこかにぶつけちゃったらどうすんのよっ。
すっごく気に入ってるのにっ。

「会社に持ってきてないのか?」

「ここにあります」

わたしはブラウスの胸元からネックレスのチェーンを引き出した。トップにピヴォワンヌが輝いている。

……わたしだって、いただいたものはちゃあんと身につけてます。

「そんなところじゃわからない。指につけろ。
……業務命令だ」

ど…どこの世界に「婚約指輪を指につけろ」っていう業務命令があるのよっ?

「……彩乃?」

返事をしないわたしを副社長がじろり、と睨む。

仕方がない。わたしは波風を立てたくない派なのだ。ネックレスを外してエンゲージリングを引き抜くと、「貸せ」と言って副社長がわたしの左手薬指にはめてくれた。

「これで、襲撃されることもなくなるかもな」

副社長は満足げに微笑んだ。

……襲撃?

「こっちは婚約したっていうのに、まだ『副社長が好きです!』とか言って、突撃してくる『自爆テロ』があるからな。業務遂行の邪魔だ」

……わたしは単なる「弾除け」かっ!

「ご用件は、それだけですね」

呆れたわたしは前室の方へ(きびす)を返した。

「あ、それから、終業後は毎日プライベートルームに来てくれ」

副社長はもう書類に目を戻している。

「……毎日、ですか?」

そんなに補充するものあったっけ?

「そうだ……毎日だ」

「承知しました」

わたしは一礼して、執務室を出て前室に戻った。

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