政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
前室に戻ると、わたしと入れ替わりで島村さんが執務室へ入っていった。
そのとき、コン、コン、コンとノックの音がしたので、「はーい」と言ってドアを開けると、グループ秘書の水野さんがいた。
「……朝比奈さん、お昼休憩なんですけど」
そういえば、もうそんな時間だ。
わたしはお弁当なので、いつもグループ秘書が常駐する秘書室で彼女と食べていた。
……でも、どうしたんだろう?
水野さんが副社長室に来ることはないのに。
「大橋さんが外に出ないんですよ」
彼女と同じグループ秘書の大橋さんは、お昼休憩には必ず外で昼食をとる。
わたしは昨日、彼女の前で、副社長とかなり大胆にキスをしたことを思い出した。
できれば当分、大橋さんには会いたくない。
「それだけじゃないんです。大橋さん、今朝からちゃんと業務をするようになったんです」
……ええぇっ!?
「でも、大橋さんは今までにろくに仕事してこなかったので」
水野さんの顔が曇る。
……まともにできないわけね。
結局は、水野さんがやり直すことになるのね。
副社長の秘書は島村さんがメインなので、手が空いたときはわたしが、グループ秘書の業務を一人でがんばる水野さんの応援に行っていた。
「朝比奈さぁーん」
水野さんがふにゃっとした泣き顔になる。
……仕方ない。行くか。