政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
会食のあと、将吾さんとわたしの父の榮太郎がなにやら話をしていた。
そのうちに、父親がゴルフのクラブを振る真似をし始めたので、たぶん今度ラウンドする約束でもしたのだろう。
こんなふうにして、将吾さんの休日が潰れていくんだな。
ゴルフはエグゼクティブたちの「共通言語」だ。
世代が離れていても、ゴルフを介せば旧知の友のようにいきなり距離を縮められる。
高スコアの持ち主は羨望の眼差しで見られて、どんなに歳上で高い役職の人からでも教えを請われる。
「……彩乃、おまえも久しぶりに一緒に回らないか?」
父親から声をかけられる。
将吾さんは、おまえゴルフやれたのか?という目をしている。
実は就職するまで、父親に連れられて少しやっていたのだ。
「彩乃は、邪魔にならない程度にはできるから」
父親が彼に説明する。
「えーっ、もうずいぶんやってないよ。今だと百切れなくて、迷惑かけるよ」
打ちっ放しの練習場ですら、行ってないというのに。ま、もともと練習場は閉塞感があって好きではないのだが。
「クラブだって古いし、無理だよ」
ゴルフクラブはどんどん性能のよいものが投入されるので、すぐに「時代遅れ」になる。
ボールの飛距離も、バンカーなどのトラブルからの脱出も、自身が持つ力より性能のよいクラブの方が助けてくれることがある。
「ドライバーも、アイアンセットも、買ってやるよ」
将吾さんがニヤリと笑った。
「彩乃は五番フェアウェイウッドが得意なんだ」
父が余計なことを言って胸を張る。
……パパ、こんなとこで突然、親バカになんないでよっ。
「それより、裕太を連れて行ってやってよ。
あの子もそろそろ始めないと。上達には時間がかかるんだから」
「じゃあ、弟くんも含めてちょうど四人だ」
将吾さんが高らかに笑った。
……冗談じゃない。
普通、ハーフの九ホールで二時間ちょいで回れるところが、ラウンドデビューと一緒になったら、何時にクラブハウスに戻ってランチが食べられるか。
青い顔をしたわたしに、
「一番後ろの組にしてもらって、スルーで回ればいい」
将吾さんが呑気に宣う。
図体はデカいくせに、いうほど運動神経が発達していない元軽音楽部の裕太を思うと、一番遅い時間から十八ホールを一気に回って、日没までにクラブハウスに戻れるとは到底思えなかった。
だけど、父親も将吾さんも、わたしの話なんかもう聞いちゃいなかった。
早速「彩乃はフェアウェイウッドはクリークと七番で」「裕太は打ちやすいユーティリティがいいかも」などと、検討会に入っている。
結局、ゴルフ好きの人たちは「クラブ好き」なのだ。