政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
♡私のお部屋に引っ張り込まれてます♡
やっと母屋から脱出できた。
「将吾さん、今日はお疲れさまでした。
お酒呑んでるし、もう帰るよね。タクシー呼ぼうか?」
たぶん今日は、呑まされる想定で来たのだろう。
将吾さんは今朝、マセラティのグランカブリオを自分で運転してやってきた。もちろん、トランスミッションはマニュアルだ。
オープンカーだが、さすがにこの季節に屋根を開け放つのは自殺行為と見えて、しっかり閉じられていた。
濡れたように艶やかな漆黒のボディに、ひときわ冴える真紅のシート、そしてホイールのピカピカ輝く銀色が、車のことなんてよくわからないわたしでも、ほぉーっと唸るほどカッコいい。
だが、このTOMITAの次代を担う「御曹司」は、マイカーですら「実験車」と称して他社の車に乗っている。
将吾さんがうちの前で降りると、助手席に乗っていた島村さんが運転席に移って帰っていった。
ほんと、こんなお正月の休日までご苦労さまだ。
「なに言ってるんだ。これからおまえの部屋に行くのに」
……はぁ!?
「おまえだっておれんちに来たときに、おれの部屋に入ったじゃないか」
将吾さんは、さも当然のことのように言う。
「あれは、あなたが勝手にわたしを連れ込んだんでしょっ!」
「じゃあ、今度はおまえに連れ込まれてやる」
……なにを言ってるんだ、この人は。
「おまえ、婆ちゃんから『あーちゃん』って呼ばれてんだな」
将吾さんが、突然、話題を変えてきた。
「……おれも、そう呼ぼうかな?」
……はぁ!? どうしちゃったの?
まさか、おじいさまに勧められたお酒で酔っちゃったの?
「手始めに、おまえの弟の前で呼んでみようか?」
将吾さんが悪ガキの目でくすくす笑いながら、わたしを見た。話題を変えたわけではなかった。
わたしへの「脅し」だった。
「……ぜっ、絶対に、やめてっ!」
わたしは声をあらん限りに叫んだ。
……冗談じゃないっ!
恋人や婚約者からそんなふうに呼ばれてるのを聞かれて、世界中で……いや宇宙中で、一番こっ恥ずかしいのは、ともに育った兄弟姉妹じゃないかっ⁉︎
「じゃあ、行こう……おまえの部屋へ」