政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
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コーヒー二つと、わたしの分のテリーヌ・オ・ショコラをトレイに乗せて部屋に戻った。

将吾さんはカウチソファには座らず、対面の無印のクッションソファに座って、わたしが買ってローテーブルに置いていたゼクシィをめくっていた。

「……このでっかいクッション、ヤバいな。
座り心地が良すぎて、動けなくなる」

……そうでしょうとも。

わたしは、将吾さんが脱いでカウチソファに掛けてあったヒューゴ・ボスのオーダーのジャケットをハンガーに掛けながら言う。

「そのクッションソファは『人をダメにするソファ』って言われてるのよ」

将吾さんは、げっ、という顔をした。

「……おれの部屋にも置こうかと思ったけど、どうするかな?」

わたしはふふっ、と笑いながら、カウチソファに座って、将吾さんの手土産のテリーヌ・オ・ショコラを一口食べた。口の中で、丹波栗がほくっとして、チョコレートがふわっと溶けていった。

……美味(おい)しーい。

わたしが世にも幸せな顔をして食べている姿を、将吾さんはコーヒーを飲みながら見ていた。

「……おまえ、そんなに美味(うま)そうに食えるんだな」

先刻(さっき)の会席料理も、たいへん美味しくいただきましたけど?それに、クリスマスのときの将吾さんちのケータリングも。
それとも、今は自分の部屋でリラックスして食べてるからかなぁ。

「見合いのとき、ほとんどなにも手をつけてなかったからな……せっかくつくってくれたものを粗末に扱う、とんでもねぇ『お嬢さま』だと思ったよ」

将吾さんは苦笑する。

……そんなふうに思った女とでも、政略結婚のためには一回会っただけで婚約をしたのか。

わたしはそんな話を聞いても、美味しくテリーヌ・オ・ショコラを最後まで堪能した。
次はいつ、だれにもらえるか、わからないし。


「前にそれを得意先からもらったことがあって、うちに持って帰ったら……」

将吾さんはそこでコーヒーを一口飲んだ。

「……わかばがすごく気に入ってな。
あいつは管理栄養士を目指してるくらいだから、身体(からだ)に良くなさそうなのは滅多に食わないんだけど、それは美味しいって食うからさ」

……あれ?おかしいぞ。

先刻までチョコレートの甘さしか感じなかった口の中に、突然、カカオの苦味が襲ってきた。

……なんでだろう?

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