政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
わたしはあわてて、コーヒーのカップを持ち上げて飲もうとする。
「……ああ、待て。まだコーヒーは飲むな」
なぜか将吾さんに制される。
「甘いものがほしくなった」
わたしは眉を顰める。
「わたしが食べてるのを見て、テリーヌ・オ・ショコラを食べたくなったんでしょ?」
……子どもじゃないんだから。
「わかったわよ。取ってくるから、ちょっと待ってて」
わたしはカウチソファから立ち上がった。
と同時に、クッションソファから立ち上がった将吾さんが長い脚でローテーブルを跨いで(なんてお行儀が悪いのかしら)こちら側にやってきた。
いつもとは違うスパイシーなオリエンタルな香りがふわっときた。この香水がバレードの1996か。
「……彩乃で味わうから、取りに行かなくていい」
え!?……と思う間もなく、もうわたしのくちびるは彼のくちびるに塞がれていた。
彼の舌が、まだチョコレートの余韻が残るわたしのくちびるを舐める。
本当に「味わわれて」いるようなキスだ。
わたしはもう、くちびるを開かずにはいられない。とたんに彼から、芳ばしいけれど苦いコーヒーの風味が入り込んできた。
わたしが淹れたマンデリンフレンチは、カルディの中では酸味よりも苦味が優るものだった。