政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
「……な…なんで、そんなとこから入ってくるわけ?」
廊下に面した扉の方には、ちゃんと鍵を掛けてあったのに。
「この部屋の隣が、おれの部屋」
将吾さんはわたしを抱きしめる腕に力を込めた。
「なんで、間にドアがあるの?」
……まさか、こういうときのための夜這い用?
「夜這い用じゃないぞ」
……うっ、読まれてる。
「もともと、おれの部屋がこの階のマスタールームで、この部屋が子ども部屋だったんだ」
確かに将吾さんの部屋は軽く二十帖はありそうで、この部屋よりずっと広い。
西洋ではよほどの住宅事情がない限り、たとえ赤ちゃんであっても夫婦の寝室とは別にする。
だけど、赤ちゃんが夜泣きしたりして様子が気になるときにお母さんがすぐに行けるようにと、この家では間に扉がつくられたそうだ。
ちなみに、わたしが先刻使ったバスルームも元は子どもの遊び部屋を兼ねたバスルームだったという。
「だから、ベッドに入っていて邪魔されたくない親の部屋からは鍵を掛けられるが、子どもの部屋からは鍵は掛けられない」
……明日、ハンズにでも寄って、ドアに取り付ける鍵でも買ってくるか。
このままでは物騒でしようがない。
「この家は明治に建てられた重要文化財級の家だが、まさか、おまえの不器用な手で鍵なんかを付けて、後世に残さねばならない貴重な文化財を傷つけようなんて思ってないよな?」
……うっ、読まれてる。