政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
「……だからな、亜湖。おまえはおれの妻なんだから、新郎側の席にいなきゃダメだろ?」
なにやら、前の二人が揉めている。
わたしと将吾さんは耳をダンボにした。
「でも、蓉子はわたしの同期で親友だよ。
新婦側で蓉子のウェディングドレスが見たい」
亜湖さんはもっともな主張をするが、大地は首を横に振って許さなかった。
「じゃあ、ヴァージンロードを挟んで、わたしが新婦側で大地が新郎側、っていうのはどう?」
亜湖さんが妥協案を提示する。
「ダメだ」
大地に速攻で却下される。
「そんなのは隣同士とは言えない。亜湖がおれから離れて座るのを、許すわけにはいかない」
「えーっ!?」
亜湖さんが不満の声を上げる。
「そもそもさ、まだ挙式も披露宴もしてないから、今日だって振袖姿なんだよ。世間的にはお披露目前で入籍したことは知られてないんだから、わたしだけ新婦側に行ってもおかしくないよ」
大地がぎょっ、とする。
「お、おまえは日本国の民法をなんだと心得てるんだっ!おれたちは婚姻届を役所に提出した正式な夫婦だぞっ!法を犯す気かっ⁉︎
結婚して早々に犯罪者になるつもりかっ⁉︎」
「……日本国は罪刑法定主義を採っているので、犯罪と刑罰の具体的内容があらかじめ法律で定められていないと、処罰することができない。
しかも、それは刑法であって民法ではない」
将吾さんがなにやらワケがわからない内容を、小声ですらすらと言った。
「よって……奥さんは不起訴で無罪放免だ」
将吾さんは淡々と「判決」を下した。