政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
振り返って、一瞬、時が止まった気がした。
一八〇センチくらいの長身、
漆黒の髪、
面長の輪郭、
切れ長の鋭い目、
通った鼻筋、
薄いくちびる……
だけど、思い描いた人とはまったくの別人だということは、次の瞬間、すぐに気づいた。
わたしがじっと見てしまったからか、相手も目を見開いていた。
そして、不意に視線を外された。
「……私は、副社長の秘書と秘書室長を兼務する島村 茂樹です」
ほとんど黒といってもいいくらいのダークグレーのスリーピースを身にまとった人が名乗った。
「副社長が出社されました。行きましょう」
彼はわたしが挨拶をする間も与えることなく、秘書室から外の廊下へ出た。
わたしは水野さんに、じゃあまたね、と言って彼のあとに続いた。