政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
『彩乃、何の話だ?
おれは誓子さんをフッた覚えはないぞ。
五年ほど前に見合いして……おれの方が断られたんだ』
「ええぇーっ!?」
わたしは大声で叫んだ。
『うるさいっ!おれの鼓膜を破壊する気かっ!?』
わたしは驚きのあまり、将吾さんからいろいろされてることもそんなに気にならなくなった。
『本当だ……当時はまだ社長と言っても親父の会社の子会社の、実績もさほど上がっていない新興の会社で、とても誓子さんのような大橋コーポレーションの社長令嬢を嫁にもらえる立場じゃなかったんだ』
……「自由気ままな次男坊のケンちゃん」としか見ていなかったけれど、イヤな思いもしてたんだね。
『断られたときは悔しくてさ。
もし、親会社の萬年堂を継ぐ兄貴の立場だったら断られることもなかったのに、と何度も思ったけど、せっかく設立した自分の会社だし、がむしゃらにがんばって今の業績まで伸ばしたんだ。
……だから、今となってはこれでよかったと思っている』
……現在は、老舗でも伸び悩んでいる「萬年堂」より、時流に乗った「ステーショナリーネット」の方が若い人たちには認知されてるもんね。
『今日さ、ひさしぶりに誓子さんに会ったら、やっぱりおれ、あの人を諦めたくないな、って思ってさ……おれにとってはすっげぇ「高嶺の花」だけどな』
……ちょっと前までの「誠子さん」ならおススメできなかったけれど、今の「誓子さん」ならぜひケンちゃんがしあわせにしてあげてほしいと、心から思う。
『……彩乃、協力してくれるか?』
初めて聞く、ケンちゃんの真剣な声音だった。
「いいよ、わかった……じゃあ、今度ケンちゃんが会社に来たときに、LINEのID交換ができるようにするね」
わたしは快諾すると、
『サンキュ、彩乃……恩に着る』
ケンちゃんが礼を述べたのを聞いてから、ピッ、とケータイを切った。
「もうっ、将吾さんっ!人が電話してるときにっ⁉︎」
わたしが怒って彼の方へ振り向くと、
「……彩乃、おまえ、葛城社長とLINEのID交換するのか?」
さらに怒った顔をした将吾さんが、そこにいた。