政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
そのとき、ドアをノックする音がした。
ガチャッとドアが開いて、島村さんが入ってきた。
「……副社長、そろそろ社を出ませんと」
副社長は島村さんを見て、ソファから立ち上がった。
「おう、わかった」
そして、わたしの方に向き直り、
「とにかく、副社長付きの秘書ということに変更はない。グループ秘書にはしない」
そう言い切って、さっさと部屋を出て行こうとするので、
「あの……わたしはどうしたら?」
おずおずと尋ねると、島村さんが答えた。
「前室のあなたのデスクに、今日のあなたの仕事をまとめたものがあります」
……あぁ、よかった。
「その派手な髪色じゃ、商談先へは連れて行けないからな」
副社長はわたしのオリーブブラウンの髪を見て言った。基本はオリーブブラウンなのだが、光を通すとかなり明るめのオリーブベージュになってしまう。
「カラーリングしてるわけじゃなくて、地毛なんですけど」
わたしは弁解した。女子校時代の校則を思い出してうんざりする。
「おれは本当は、この瞳の色と同じ髪色だ。
母方のじいさんがスウェーデン人だからな。
チャラチャラして見られるのがイヤだから、ダークブラウンに染めてる」
副社長の地毛はカフェ・オ・レ色なのか。
「……わたしもカラーリングした方がいいですかね?」
副社長はギョッとした。島村さんの眉間にも一瞬でシワが寄った。
「早まるなっ、絶対に染めるなよっ!」
副社長がしてるから、わたしもしないといけないのかな、って思っただけなのに。
「……副社長、お時間が」
島村さんが時計を見せて促す。IWCのポートフィノ・クロノグラフのブラックフェイスで黒革ベルトだ。かなり時間が迫っていたようだ。
あわただしく、二人は副社長室を出て行った。