政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
「多岐にわたる業種を抱えている持株会社にもかかわらず、それを統括するシステムがあまりにも脆弱です」
率直に、海洋が副社長に告げた。
「まさに、そこがうちの弱点なんだ。
ずっと気にはなっていたんだが、社内でその方面に明るい適切な人材がなく、なにしろ会社の根幹に関わることだから、迂闊に外部から招くわけにもいかない。
実は前々からその方面に詳しい水島 慶人氏に打診していたのだが、四月からあさひ証券の本社のITシステム本部長に就任して社内の大改革を行うので、とても手が回らないと断られた。
だが、彼から君が四月までに学業を終えて帰国することを聞いた。君の兄の朝比奈 太陽氏のことも知ってるし、私の婚約者の彩乃とも親戚だ。
それで、今回お願いすることにした」
副社長が経緯を説明した。
「……まさかアメリカにいる僕に、専門のエージェンシーに頼らず、副社長が直々にヘッドハンティングの電話をかけてこられるとは思いませんでした」
海洋が片方の口角を上げて苦笑する。
だけど、フットワークの軽い将吾さんならあたりまえのことだ。
「私も君が二つ返事で引き受けてくれるとは思わなかった。君はアメリカで学生生活を送る身とはいえ、あさひJPN銀行の執行役員でもあるし、交渉には時間がかかるだろうと思っていた」
将吾さんが海洋を鋭く見据えた。
「僕の方にもちょっと急がねばならない『案件』が発生していたので、あなたの話は渡りに船でした」
海洋も将吾さんを正面から見返した。