政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
♡お姑さまから呼び出されてます♡
今週末には「答え」を出さねばならないというのに、今日はもう木曜日だ。
午後、ケンちゃんが副社長を訪ねてやってきた。
わたしは、彼が執務室で副社長と面会している間に、ダッシュで秘書室へ駆け込んだ。
すっかり「乙女」になって、もじもじしている誓子さんを説得し、それでもつべこべ言うので羽交い締めにして拉致する。
両拳を握りしめた七海ちゃんが「誓子さん、ファイトですっ!」とエールで見送る。
「いやぁよおっ!わたしはフラれたのよぉっ!
……今さら、どんな顔をして会えっていうのよぉっ!?」
往生際の悪い誓子さんを引きずるようにして廊下を行く。
「だからっ、誤解なんですってばっ!
ケンちゃんの方がお断りされたんですっ!
何回も言ってるじゃないですかっ!!」
「そんなの、嘘よぉっ!」
「だったら、直接本人に聞きましょうっ!
……さあっ!!」
あぁ、めんどくさい人だ。
副社長室の前室の扉を開けて、誓子さんを放り込む。ちょうど、執務室からケンちゃんが出てきたところだった。
誓子さんがグズグズ言っててなかなか動かないから、ケンちゃんが帰ってしまったあとだったらどうしようと思っていた。
「……誓子さん」
ケンちゃんの顔がぱあっと明るくなった。
……わかりやすい。
なのに……なんで誓子さんには、わかんないんだろ?
「ケンちゃん、もう三時の休憩だから、どっかでお茶でもしてきなよ?」
ケンちゃんがうれしそうに肯く。
「三時の休憩」なんて、この会社にはないけど、そのくらい、いくらでも誤魔化してあげる。
「……わかってますよね?
ケンちゃんとLINEのID交換するんですよ?」
わたしは、頬を赤らめて俯いた「純情可憐」な誓子さんに、江戸時代の遊郭にいた遣り手婆のように耳打ちする。
そして、副社長室を出て行くアラサーとは思えぬほど初々しい二人を、この上なく清々しい気持ちで見送る。
……あぁ、「恋のはじまり」っていいなぁ。