政略結婚はせつない恋の予感⁉︎
コハダ・鯖の炙り・車海老・小柱・青柳・蛤・穴子…と江戸前のにぎりを堪能していた。
「うちのバカ息子、あなたにちゃんと自分の気持ち、伝えてるかしら?……伝えてないわよねぇ」
マイヤさんはまた一杯をくーっと呑み干した。
将吾さんのお酒の強さは、母親譲りだった。
二人で石川の天狗舞を一升瓶から注いで、ぐびぐび呑《や》っていたが、そのほとんどはマイヤさんだ。
わたしはちょっとだけ、回ってきたかな。
さすがに、日本酒ばっかだしな。
「あの子はわたしのスウェーデンの父親によく似ていてね」
マイヤさんは目を眇めた。
「外国の血が入ってるからって、ストレートに愛情を示すわけじゃないのよ。
スウェーデンは北国で雪国でしょ?
日本で言えば、東北の人たちの気性とちょっと似てるかもしれないわね」
……そうなんだ。知らなかった。
「一旦、恋人同士や夫婦になったりすると甘々になるんだけど、そうなる前は口にも態度にもなかなか出さないのよねぇ」
マイヤさんがカウンターの隣に座るわたしを、改めて見る。
「……でもね」
カフェ・オ・レ色の瞳が一瞬、琥珀色に染まる。
「北国の男が一旦放った愛の言葉は、とてつもなく重い……真実の気持ちよ」
そして、ふふふ…と妖艶に笑った。