政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

コハダ・(さば)(あぶ)り・車海老・小柱・青柳・(はまぐり)・穴子…と江戸前のにぎりを堪能していた。

「うちのバカ息子、あなたにちゃんと自分の気持ち、伝えてるかしら?……伝えてないわよねぇ」

マイヤさんはまた一杯をくーっと呑み干した。
将吾さんのお酒の強さは、母親譲りだった。

二人で石川の天狗舞を一升瓶から注いで、ぐびぐび呑《や》っていたが、そのほとんどはマイヤさんだ。

わたしはちょっとだけ、回ってきたかな。
さすがに、日本酒ばっかだしな。

「あの子はわたしのスウェーデンの父親によく似ていてね」

マイヤさんは目を(すが)めた。

「外国の血が入ってるからって、ストレートに愛情を示すわけじゃないのよ。
スウェーデンは北国で雪国でしょ?
日本で言えば、東北の人たちの気性とちょっと似てるかもしれないわね」

……そうなんだ。知らなかった。

「一旦、恋人同士や夫婦になったりすると甘々になるんだけど、そうなる前は口にも態度にもなかなか出さないのよねぇ」

マイヤさんがカウンターの隣に座るわたしを、改めて見る。

「……でもね」

カフェ・オ・レ色の瞳が一瞬、琥珀色に染まる。

「北国の男が一旦放った愛の言葉は、とてつもなく重い……真実(ほんとう)の気持ちよ」

そして、ふふふ…と妖艶に笑った。

< 324 / 507 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop